3行まとめ
- 英国の税務当局が暗号資産の保有者に送った警告は2025-26年度に81,172通
- 2027年3月から英国外の取引所も顧客情報を税務当局と共有する義務を負う
- 英国では暗号資産どうしの交換で出た利益も申告の対象になる
何が起きたか
英国の税務当局が、暗号資産の保有者への警告を2023-24年度から3倍近くに増やしました。2025-26年度に送られた手紙・メール・SMSは81,172通。2023-24年度は27,714通でした。
この数字は会計事務所UHY Hacker Youngの情報公開請求で表に出て、BBCが確認しています。宛先は、売却などで得た利益の申告が足りていないと当局が疑う投資家です。申告を怠れば罰金や訴追の対象になります。
暗号資産を別の暗号資産に交換した場合も同じ扱いです。当局の広報担当は、税務の状況を見直してもらうために定期的に手紙を送っていると説明しました。
なぜ難しい・何がすごいか
引っかかるのは、暗号資産の取引が当局から見えているのかという一点です。UHY Hacker YoungのNeela Chauhan氏によると、取引をする層は若い。当局とのやり取りの経験が乏しく、自分の活動は見えていないという前提で動く人が多いといいます。
その前提が崩れます。もう一つの分かりにくさは、利益が確定する時点の線引きです。現金に換えたときだけが対象だと考えるなら、交換は取引の途中にすぎません。
英国の扱いは違います。別の銘柄に乗り換えた時点で、その差額が申告の対象になり得ます。当局が81,172通を送った相手には、現金化していない人も含まれます。
たとえ話
空港の入国審査で使う名簿を思い浮かべてください。各国が別々に名簿を抱えていれば、ある国の窓口に残った記録を隣の国は知りません。名簿を互いに渡す取り決めができると、どこか一つの窓口に立った事実が全体から参照できるようになります。
2027年3月から暗号資産のプラットフォームに求められるのは、この名簿の共有に近い動きです。
用語ミニ辞典
- HMRC(英国歳入関税庁): 英国の税と関税を扱う政府機関。今回の警告を送った当局。
- キャピタルゲイン税: 資産を売って出た値上がり益にかかる税。今回の警告はこの申告漏れを疑ったもの。
- 情報公開請求(FOI): 公的機関に情報の開示を求める英国の制度。今回の通数はこれで判明した。
- 当局間の情報共有: 各国の税務当局が納税者の取引情報を互いに渡す仕組み。2027年3月から英国外の暗号資産プラットフォームが対象に入る。
技術者向けの深掘り
当局がデータを自分で取りに行く必要が薄くなります。2027年3月から、英国外の多数の国にある暗号資産プラットフォームは、顧客の情報を税務当局と共有する義務を負います。国内の取引所しか届かない状態から、海外に口座を置いた取引も届く状態への切り替えです。
当局は制度の発表時、この権限で暗号資産の投資家に公平な負担を払わせると表現しました。試算では2030年4月までに最大3億1,500万ポンドの税収増。当局は、新人看護師1万人以上を1年雇える額だと付け足しています。
HMRCがこのデータを手にすれば、暗号資産の投資家への税務調査は樽の中の魚を撃つようなものになる
Chauhan氏はこう述べています。価格が下がった局面でも調査の対象は消えません。
ビットコインは2022年12月から2025年10月に約1万4,000ポンドから約9万ポンドへ上がりました。直近1年では約4万8,000ポンドに下げています。当局が見ているのは、上げ局面で生じた利益です。
これは自分に関係ある?
動いているのは英国の制度で、日本の扱いはこの記事の範囲外です。読み取れるのは、取引所が抱える顧客データを税務当局へ渡す設計が、国境をまたいで広がっているという事実です。
- 暗号資産を触っていない人: 事業者の記録が当局へ自動的に流れる仕組みが、どこまで広がるかを測る材料になります。
- プラットフォームを作る側: 当局への報告が機能要件として降りてきます。どの操作を報告対象の取引として記録するかが、設計の分岐点になります。
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