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避難所からスマホで3時間半、AI指示20回で作った被災地サイト

3行まとめ

  • 熊本地震の発生当日、避難所からスマートフォンで被災地情報サイト「イマココナビ」が作られました。開発時間は3時間半です
  • 作ったのはWebマーケティング会社代表の加悦美里さん(38)。プログラムはAIに任せ、指示を約20回繰り返して完成させました
  • 訪問者は16万人以上、書き込みは5万件超。行政では拾いきれない細かな情報の受け皿になりました

何が起きたか

被災の真っ最中に、被災者自身が情報共有サイトを立ち上げました。熊本地震の発生から約5時間半後、午後10時過ぎのことです。Webマーケティング会社代表の加悦美里さん(38)は避難所にいました。スマートフォンからAIに、こう指示を出し始めます。

地震発生時に価値ある情報をまとめられるサイトを作りたい。みんなが書き込め、見られるようにしたい

この指示を約20回繰り返し、3時間半でサイトは完成しました。名前は「イマココナビ」。「今、この瞬間が伝わるように」という思いを込めています。

きっかけはSNSでした。「ミルクが底をつくが買えない」「ガソリンが入れられない」という投稿に、「ここで買えた」という返信が付いている。情報は確かにある。でも流れて埋もれていく。加悦さんは「即時性の高い情報を確認できる場所が必要だ」と考えました。

サイトに集まったのは、店舗の営業状況、炊き出しの場所、託児所、子供が遊べる公園。高齢者でも運べる小容量ペットボトル水の配布場所や、爬虫類のペットフードを売る店まで共有されました。訪問者は16万人以上、登録スポットは4000件超、書き込みは5万件以上。この結果を、加悦さんはこう振り返ります。

熊本の人たちの目に見えない支え合いが形になった結果だ

なぜ難しい・何がすごいか

一番のポイントは、サイト構築の専門家でない人が、必要なものを必要な夜に作り切ったことです。投稿型のWebサイトを作るには、従来なら画面の設計、プログラムの実装、データを保存する仕組み、公開の準備が要りました。エンジニアが取り組んでも数日はかかる仕事です。それを非エンジニアが、避難所で、スマホで、3時間半。前提が覆っています。

加悦さんがやったのは「作りたいものを言葉で伝えること」でした。プログラムを書くのはAIの仕事。人間の仕事は、何が必要かを見極めて、伝わるまで言い直すことです。約20回の指示はその往復にあたります。専門技術の壁が下がった分、勝負どころは困りごとを言語化できるかに移りました。加悦さんはSNSで困りごとの現物を見ていました。だから指示が具体的だった。この順番が大事です。

たとえ話

これは「腕のいい大工さんに、施主が口頭だけで家を建ててもらう」話に近いです。施主は設計図を描けません。それでも「玄関は広く」「窓はここに」と要望なら言えます。大工は一晩中つきあってくれて、言われるたびに作り直してくれる。20回の往復の末、朝には住める家が建っている。大工の腕(AIの性能)だけでは家は建ちません。どんな家が要るかを知っている施主がいて、初めて成立します。加悦さんは、被災地の困りごとを知っている施主でした。

用語ミニ辞典

  • プロンプト: AIに出す指示文のことです。加悦さんが約20回繰り返した「サイトを作りたい」という言葉がこれにあたります。
  • バイブコーディング: プログラムを直接書かず、AIへの自然な言葉の指示だけでソフトを作る開発スタイルの俗称です。
  • 要件定義: 「何を作るか」を決めて言葉にする、ソフト開発の最初の工程です。今回はAIへの最初の指示文がこの役割を果たしました。
  • 情報インフラ: 電気や水道のように、社会全体が当たり前に頼る情報の仕組みのことです。加悦さんは、イマココナビを行政がこの形で運用することを理想に挙げています。

技術者向けの深掘り

「指示約20回・3時間半」という数字は、開発の単位が実装からフィードバックループに変わったことを示しています。単純計算で約10分に1回の指示です。要求を出す、生成される、動きを確かめる、直しを頼む。この短いループを深夜の避難所で回し続けた、というのが実態に近いはずです。仕様書もチケットもありません。あるのは目の前の困りごとと、それを伝える言葉だけです。

開発環境の観点も見逃せません。構築に使われたのはスマートフォンです。ローカル環境もエディタもない状態から、投稿と閲覧ができるサイトが公開まで届きました。「開発にはPCが要る」という前提が成立しない場面は、もう現実にあります。

設計面で面白いのは、投稿内容を細かく縛らなかった点です。爬虫類のペットフードを売る店。高齢者でも運べる小容量の水。こうした項目は、事前のカテゴリ設計ではまず出てきません。加悦さん自身が「ニッチな需要に対応できること」「行政では拾いきれない細かな情報を共有できる」と語る通り、自由に書き込める器にしたことが4000件超のスポットと5万件超の書き込みにつながりました。

一方で、宿題も残っています。加悦さんは「国や自治体が情報インフラとして運用してくれるのが理想だ」と話します。3時間半で作れるのは初動までです。可用性の担保、情報の信頼性、平時の維持。そこから先は依然としてエンジニアリングと運用の仕事です。作る速度が上がったからこそ、続ける仕組みの価値が際立ちます。

これは自分に関係ある?

  • AIやテックが気になる人: 「作る側」に回る入り口が開いています。プログラミング経験がなくても、困りごとを具体的な言葉にできれば形になります。身の回りの小さな不便をAIに相談するところから始められます。
  • AI専門ではないエンジニアの人: 実装力の価値が消えたわけではありません。ただ「作れること」単体の希少性は下がりました。何を作るべきかの見極めと、作ったあとに運用し続ける力へ、重心を移す時期です。
  • 地域や防災に関わる人: 災害時の情報共有は、住民自身が数時間で立ち上げられる段階に来ました。平時から「誰がどう運用するか」を決めておくと、次の初動が変わります。

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