3行まとめ
- EU AI Act 対応で、Claude の出力に透かしが入る
- 手口は「意味が変わらない単語」の選び方を鍵付きの乱数でずらすこと
- 書き手側からは「取るに足らない単語などない」と反発が出ている
何が起きたか
Anthropic が、Claude の書いた文章に透かしを入れる計画とその仕組みを公表しました。狙いは EU の規制対応です。同社は2026年7月、EU の「AI生成コンテンツの透明性に関する行動規範」に署名しました。
署名者は約190に上ります。8月2日から、EU市場で提供する事業者は AI が作った文章に印を付けることを求められます。
Anthropic は地域を絞って適用する確実な方法がまだ無いとして、最初から全世界に適用します。同じ規範に署名した他の主要な開発元も、それぞれの透かしを実装する見込みです。
反発はすぐ出ました。Reddit では賛否が割れています。X では解約を宣言する利用者が数十人現れたと Business Insider が伝えています。
なぜ難しい・何がすごいか
紙幣やロゴの透かしを思い浮かべると、話がずれます。文章に画像は重ねられません。Anthropic は、文字を足すことも不可視文字を仕込むこともしないと明言しています。
印になるのは単語の選び方です。大規模言語モデルは、次に来る確率の高い語を1語ずつ選んで書きます。「今日の天気は寒くて…」の続きに「甘い」はまず来ません。
「どんよりした」か「灰色の」あたりが来ます。この2つならどちらでも文の意味はほぼ変わらない、というのが同社の説明です。
そこで選択を秘密の鍵に紐づいた乱数で少しだけ偏らせます。偏りが数百語ぶん積み重なると、鍵を持つ側だけが統計的に「Claude が書いた」と見分けられます。
批判はこの前提そのものに向いています。技術系ブロガーの John Gruber 氏は、まったく同じ意味の同義語など2つと無いと書きました。
私が使う LLM には、あらゆる分岐点で最良の、最も的確な語を選んでほしい
そう述べています。
たとえ話
符丁を思い浮かべてください。仲間内で「今日は暑いね」なら異常なし、「今日は蒸すね」なら要注意、と決めておく。
どちらも天気の話にしか聞こえません。事情を知らない人には普通の雑談です。
取り決めを知る側だけが合図を読み取れます。今回の透かしは、これを1語ずつ、文章全体で何百回と重ねる仕掛けです。
用語ミニ辞典
- 透かし(ウォーターマーク): 見た目に分からない印を内容そのものに埋め込み、出どころを判定できるようにする技術。
- SynthID-Text: Google DeepMind が2024年の論文で示した文章向けの透かし手法。Anthropic が今回採用した。
- トークン: モデルが文章を扱う単位。単語そのものや単語の一部にあたる。
- EU AI Act の透明性行動規範: AI が作った文章に印を付けることを事業者に求める運用ルール。2026年7月に署名が集まった。
技術者向けの深掘り
介入する場所は次トークンモデルが文章を扱う単位。単語そのものや単語の一部にあたる。のサンプリングです。各生成ステップで語彙を2群に分け、片方の確率をわずかに引き上げます。振り分けは鍵と直前の文脈からその都度決まるため、Claude が常に好む単語や避ける単語の一覧はできません。
検出は偏りの検定です。有利側に振られた語がどれだけ多いかを数えて確率的に判定します。
当然サンプル数、つまり語数が要ります。規制が対象とするのは200トークン、およそ150語を超える文章です。
事実の記述やコードでは、正確さを保ったまま選べる候補が少ないため透かしは薄くなります。コード中でも、コメントのように自由の効く箇所には入りえます。軽い編集では消えず、全語を置き換える全面改稿なら消えます。
強度の中途半端さも批判の的です。日常的な利用や校正には広く網がかかる一方、本気で隠したい人は書き換えで抜けられます。
これは自分に関係ある?
- Claude に文章を書かせている人: 出力をそのまま貼れば、鍵を持つ側には判別されうる状態になります。速度も料金も変わらないため、使用感からは気づけません。
- 校正だけ任せている人: ほとんどの語が本人のものなら透かしが付く余地は乏しい、というのが Anthropic の説明です。ただし文章の長さと手の入れ方次第だとも言っています。
- AI を使っていない人: 他所から引用した一節に印が残る可能性は残ります。検出は Anthropic が持つ鍵に依存し、同社は検出用APIの公開を計画しています。
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