3行まとめ
- 写真家の筆者が、2000年に応募した求人広告を新聞のアーカイブから掘り当てました
- 社名は伏せられ、応募はファックス電話回線で紙の文書を送る仕組み。広告には応募先としてこの番号だけが載っていました。、返事は留守番電話でした
- 検索も逆引きもない時代の求人が、あいまいな記憶ごと残っていました
何が起きたか
筆者は写真家です。2000年にポロ・ラルフローレンの社内写真家になりました。前職はクリスティーズで、提示された報酬はその倍でした。
その仕事はニューヨーク・タイムズの求人広告で見つけたものです。筆者は長年そう語ってきました。ただ本人が自分の記憶を疑っています。
記憶は語るうちに形を変えます。話しすぎて別のものに作り変えたのではないか。筆者はそう書いています。
そこで購読者向けのTimes Machineニューヨーク・タイムズの購読者が過去の紙面スキャンを読めるサービス。150年分をさかのぼれます。を開きました。150年分のスキャン紙面を読めるサービスです。手元の保管庫から当時のカバーレターが出てきて、応募の時期が絞れました。
日曜版だろうと見当をつけ、求人欄のPの並びをたどりました。2000年1月16日の紙面に、その広告はありました。
なぜ難しい・何がすごいか
広告には社名がありません。文面はこう始まります。
PHOTOGRAPHER Leading Fashion Company seeks staff photographer.
「写真家募集、大手ファッション企業が社内写真家を求めています」という意味です。続けて条件が並びます。ショールームの内装、店頭のウィンドウ、商品の撮影。
4x5カメラ大判のフィルムを使うカメラ。この広告は扱えることを応募条件にしていました。を扱えること、量が多いこと、福利厚生が完備であること。連絡先はファックス番号だけです。名前の代わりに、のちに上司となる女性のイニシャルが載っていました。
つまり求職者は、応募するまで相手が誰か分かりません。広告主の側から見れば、社名を伏せたまま応募を集められる仕組みです。ここが今との一番の差です。
たとえ話
町に掲示板が一枚しかない状態を思い浮かべてください。仕事の募集はそこにしか貼られません。だから週に一度、端から端まで目で追うことになります。
筆者も同じでした。写真の求人といっても、学校で撮る記念写真のような、構図の理解を求められない仕事が並びます。カメラを使うだけの仕事だと感じながら、それでも欄を読み続けました。
選ぶ前に、まず全部を見る。それが当時の探し方です。
用語ミニ辞典
- 案内広告: 新聞の後ろのほうに小さな文字で並ぶ広告欄。求人のほか、家具の売り買いや人との出会いもここから生まれました。
- Times Machine: ニューヨーク・タイムズの購読者が過去の紙面スキャンを読めるサービス。150年分をさかのぼれます。
- 4x5カメラ: 大判のフィルムを使うカメラ。この広告は扱えることを応募条件にしていました。
- ファックス: 電話回線で紙の文書を送る仕組み。広告には応募先としてこの番号だけが載っていました。
技術者向けの深掘り
当時の求人流通には索引が一段しかありません。職種の頭文字です。写真ならPの並びを見ます。
検索語で引くことも、条件で絞ることもできません。読者が目で走査する前提の設計でした。
逆引きの経路も細いままです。筆者は番号から社名を割り出し、ラルフローレンだと知って応募した記憶があります。ただ本人がそこを疑っています。
Googleはありましたが、ファックス機の番号まで索引していたでしょうか。
通信の記録も片側しか残りませんでした。筆者は1997年以降のメールをすべて保管し、学生時代のノートもPDF化しています。一方で留守番電話のテープはデジタル化していません。
実家の箱にあった紙もすべてスキャンし、原本は処分しました。2000マイル離れた箱より、手元のドライブを参照するからです。上司からの伝言だけは、確かめる手段が残っていません。
これは自分に関係ある?
- 仕事を探す人: 求人を検索できるのは、索引と逆引きが後から足された結果です。当時なかったのはその二つでした。
- 人を採る人: 社名を伏せたまま募集を出せた時代がありました。今は番号ひとつから会社が特定されます。
- 記録を残す人: 残す形式が、後から確かめられるかを決めます。筆者のメールは残り、テープの声は消えました。残し方を選んだ時点で、思い出せる範囲も決まっています。
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