3行まとめ
- NISTがピーナツバター「SRM 2387」を標準物質として販売。1単位は170g×3瓶
- 脂肪や亜鉛の量に認証値分かっている偏りをすべて考慮し、NISTが正確さに最も高い確信を持つ値。用語集でこの語を見るが付き、食品分析の測定手順の検証に使う
- 不安定と分かった値は取り下げる運用で、証明書は2029年12月31日まで有効
何が起きたか
米国立標準技術研究所(NIST)は、ピーナツバターを標準物質「SRM 2387」として販売しています。1単位は170gの瓶が3本。ピーナツバターのメーカーが製造したクリームタイプで、原料はローストピーナツ・砂糖・部分水素添加植物油・塩です。
食べ物としては売っていません。証明書は「実験室での使用専用であり、人の飲食用ではない」と明記しています。用途は、脂肪・脂肪酸・カロリー・ビタミン・元素・アミノ酸・アフラトキシンカビが作る毒素。SRM 2387には合計値の参考値が付いている。用語集でこの語を見る(カビが作る毒素)を測る分析方法の検証です。
保管の指定はマイナス20°Cの冷凍庫です。注文すると、ドライアイスに載って届きます。
なぜ難しい・何がすごいか
測定器と分析手順は、自分が正しい数字を出しているかを自分では確かめられません。そこで、答えがあらかじめ分かっている試料を測り、証明書の値と突き合わせて手順を検証します。SRM 2387はこの「答え付きの試料」です。
NISTは値の信頼度を2段階に分けています。分かっている偏りをすべて考慮し、最も高い確信を持てる値だけを「認証値」と呼び、そこに届かない値は「参考値認証の基準には届かない、手元のデータから出せる最良の推定値。用語集でこの語を見る」と区別します。
2020年1月15日の改訂では、パルミチン酸の認証値とアクリルアミドの参考値を取り下げました。理由は、値が不安定だと観測されたためです。
答えを売る側が、答えの信頼度を下げる判断まで公開しています。NISTは組成や特性を確かめた標準物質を1200種類以上販売しています。
たとえ話
役回りは、体重計の検定に使う分銅です。重さが厳密に分かっている分銅を載せ、表示と比べれば、体重計のズレが分かります。
SRM 2387は食品分析にとっての分銅です。亜鉛の量は1kgあたり26.3mg(±1.1mg)と証明書に載っています。この値と測定結果を比べれば、自分の装置と手順のズレが数字で見えます。
用語ミニ辞典
- SRM(Standard Reference Material、標準物質): NISTが組成や特性を確かめ、証明書を付けて販売する試料。測定方法の検証に使う。
- 認証値: 分かっている偏りをすべて考慮し、NISTが正確さに最も高い確信を持つ値。
- 参考値: 認証の基準には届かない、手元のデータから出せる最良の推定値。
- アフラトキシン: カビが作る毒素。SRM 2387には合計値の参考値が付いている。
技術者向けの深掘り
認証値は多重測定の平均で決めます。NIST自身の測定値と協力機関の測定値を平均し、不確かさは約95%信頼水準で付けます。協力機関にはGeneral Mills、Kraft Foods、Nestlé USA、米国農務省、FDAが並びます。
測定法も証明書に書いてあります。元素はICP-OES(誘導結合プラズマ発光分光)で測ります。脂肪酸はGC-FID(ガスクロマトグラフィーの一種)、トコフェロールは液体クロマトグラフィーです。
瓶ごとのばらつきも評価しました。α-トコフェロールには約5.6%、その他の成分には約1%を不確かさに上乗せしています。
使い方にも指定があります。冷蔵庫で一晩解凍し、中身をよく混ぜてから測り取ります。最低量はトコフェロールが5g〜7g、脂肪と脂肪酸が1g、元素が0.5gです。
これは自分に関係ある?
- 食品や検査の仕事をしている人: 証明書は、社内の基準試料に値を付けるときの品質保証も用途に挙げています。ピーナツバターに似た食品の分析にも使えます。
- エンジニア: 正解が確定した入力で手順ごと検証する発想は、回帰テストのゴールデンデータと同じです。しかも正解の側に±の不確かさと有効期限が付いています。
- 雑学として楽しみたい人: 証明書には、成分の平均値から計算した100gあたり637kcalという数字まで載っています。政府機関が売るピーナツバターは、成分表が売り物の本体です。
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