3行まとめ
- gzipのような圧縮器と大規模言語モデルは、根っこで同じ問題を解いている
- 次に来るものを当てられるデータほど、小さく詰められる
- どこまで圧縮できたかは、そのデータをどれだけ読めているかの物差しになる
何が起きたか
圧縮ソフトとAIの言語モデルは、同じ問題を解いています。圧縮の基礎から順に辿ってそれを示す解説が公開されました。
きっかけは、書き手が圧縮について調べていて気づいた重なりでした。2023年にはGoogle DeepMindが、言語モデリングと圧縮は同じものの2つの見方だとする論文を出しています。今回の解説は、その主張を数式なしで歩いて確かめる内容です。
扱うのはデータを一切失わない可逆圧縮です。JPEGやMP3のように細部を捨てる非可逆圧縮は今回の範囲の外にあります。ただし、どちらも確率を使って縮める点は変わりません。
なぜ難しい・何がすごいか
圧縮の主役は確率です。
同じ文字の繰り返しを「A9B4C2」のように畳む方法が分かりやすい例です。28文字224ビットの並びが12文字96ビットになります。
ただし現代の圧縮ソフトはもっと手前を見ています。まず各記号の出やすさを表にして、その確率をエントロピー符号器確率を受け取って実際のビット列を作る部品。gzipやBrotliが使うハフマン符号、算術符号などがあります。という部品に渡します。
渡された確率が偏っているほど、出てくるビット列は短くなります。ここで効いてくるのが文脈です。英語のUは全体では約0.028の確率ですが、Qの直後では約0.999まで跳ね上がります。
出ると分かっている記号は、ほとんどビットを使わずに書けます。次が読めているほど小さくできる。圧縮は当てっこなのです。
たとえ話
先が読める相手との会話を思い出してください。
長年組んだ同僚になら「例の件、明日で」で通じます。前提を共有していない相手には、経緯から順に説明しないと伝わりません。伝える中身は同じなのに、必要な言葉の量が違います。
圧縮でも事情は変わりません。次に何が来るか当てられる度合いが、そのまま必要なビット数を決めています。
用語ミニ辞典
- 冗長性: データの中の繰り返しや偏り。圧縮はこれを削って縮めます。
- エントロピー: 1記号あたり平均で何ビット必要かという下限。これより小さくはできません。
- エントロピー符号器: 確率を受け取って実際のビット列を作る部品。gzipやBrotliが使うハフマン符号、算術符号などがあります。
- 算術符号: データ全体を0以上1未満の1つの数で表す方式。1970年代後半に作られました。
- トークン: LLMが扱う単位。単語や単語の一部を表す数値です。
技術者向けの深掘り
伸びしろがあるのはモデル側だけです。エントロピー1記号あたり平均で何ビット必要かという下限。これより小さくはできません。符号器は固定で決定的、いじる余地がありません。圧縮率を上げたいなら、より当たる予測器を用意するしかありません。
直前の1記号だけを文脈に使うorder-1モデルでも効果は大きく出ます。「TO BE OR NOT TO BE」の18記号は、1記号2.59ビットから1.16ビットに下がります。
予測器をLLMに替えると差はさらに開きます。ディケンズの一節では、order-1が元の24%(434ビット)、GPT-2が元の10%(176ビット)まで縮みました。
それでも日常のHTTPレスポンスにLLMは使われません。送り手と受け手が数ギガバイトのモデルを共有する必要があり、数キロバイトを削るために払う代償として釣り合わないからです。
面白いのは学習側の目盛りです。LLMの訓練が下げているcross-entropyは、圧縮でいうビット数/記号と同じ式です。予測が上手くなることと小さく詰められることが、1つの数で結ばれています。
これは自分に関係ある?
- AIのニュースを追っている人: LLMが「もっともらしい続き」を返す正体は、次のトークンLLMが扱う単位。単語や単語の一部を表す数値です。の確率分布です。ここを掴むと、新しいモデルの話の聞き方が変わります。
- エンジニアの人: Accept-Encodingで選ぶgzipやBrotliと、生成AIの改良は同じ軸の上にあります。速さと省メモリの勝負に移った符号器の隣で、モデルだけが伸び続けています。
- どちらでもない人: 説明が短くて済む相手ほど話が通じています。その日常の感覚が、そのまま情報理論の言葉になっています。
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